少女の髪どめ(#421)

NHK-BSで『少女の髪どめ』を鑑賞。
イラン映画の巨匠マジッド・マジディ監督作品。この監督は素人の役者しか使わないことで有名だがこの作品も例外ではない。
ソ連によるアフガン侵攻の後、祖国にはいられなくなったアフガン人たちは隣のイランへ出稼ぎに行っていた。不法就労のアフガン人たちはイラン国内の建築現場で低賃金の労働力として雇われていた。そんなある日、1人の見るからにひ弱なアフガン人の少年ラマートが怪我をした父親の代わりに現場にやってきた。イラン人の青年ラティフは、日ごろから親方がアフガン人に親切なのに自分の給料は払ってくれないことや、それまで自分の仕事だった買出しやお茶汲みの仕事をラマートに取られたことを不満に思い、そのすべてがアフガン人やラマートのせいだと感じていた。しかしある日ラティフはラマートの秘密を知ってしまった。なんとラマートは女の子だった。それ以来ラティフは一変し、まさに一途としか言いようがない親切な態度でラマート(バラン)に接する。
この映画はアフガン侵攻の時代で描かれているが明らかに9.11以降のアフガニスタンと隣国イランの今を語りかけている。戦争難民がどうやって生きなくてはいけないのか、そこには想像もしていなかったことが現実として描かれている。
ラマート(バラン)は父親が現場で怪我をして働けなくなったので、その代わりとしてやってきた。それも男として。彼女の家族は異国の地で、まだ少女のバランに頼りきるほか生活できない。ラティフは気の毒に感じ親切になるのだけれど、バランに対するその思いはまさにイスラムの「無償の愛」。親切心は愛おしさに変わり、おそらくラティフの初恋だったのだろう。その純真さは何よりも正直で美しい。
イラン映画のゆったりとした空気こそが、きっとイランに流れる時間そのものなんだろう。そんなところで生活している純朴な青年の初めての恋、そして別れ。観るものを切なくて懐かしい気持ちにさせる1本。

少女の髪どめ [DVD]

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