スモーク・シグナルズ

NHK-BSで『スモーク・シグナルズ』を鑑賞。
サンダンス・NHK国際映像作家賞の受賞作品。
トーマスとビクターが生まれた年の独立記念日、のどかなインディアンの居住地。トーマスの両親は、白人たちのお祭りの日に居住地に住む仲間を集めてお祝いをすることに。午前3時みんな酔いつぶれて寝静まっていたところに、突然火事が起きて家が全焼してしまう。轟々と燃える家の2階の窓から小さな赤ん坊・トーマスが飛び出し、それを奇跡的にキャッチしたのがビクターの父・アーノルドだった。トーマスの両親はこの火事で死んでしまったが、トーマスの祖母は孫を助けてくれたアーノルドにいたく感謝した。12年たったアーノルドの生活はすさみ、アルコールに溺れては家族にも暴力を振るう日々だった。そんな生活に耐えられなくなった妻と口論となり、家族を置いて居住区から出て行ってしまった。インディアンにとって姿を消すということは、二度と会わないことを意味していた。22歳になったある日、聞き覚えの無い女性からの電話が父の死を知らせた。ビクターは母親から遠く離れたフェニックスへ行き遺灰を引き取って来るよう頼まれるが、家族を捨てた父への憎しみから拒んでいた。そこへ幼馴染のトーマスが貯金箱を抱えてやってきた。「このお金をフェニックスまでの旅費に使って欲しい、だけど自分もついていく」と。居住区の中しか知らない二人は長距離バスに乗り、父親の遺灰を受け取りに行くため生まれて初めての旅に出る・・・。
自身もインディアンであるクリス・エア監督が、インディアンの家族、友情、生き方を描いたロードムービー。監督も言っているけど、インディアンを善人か悪人として表現するのではなくて、ごく普通の人間として扱った作品。
登場人物で一番好きなのはやっぱりトーマス。最初は見間違えかと思うくらいの見た目のインパクトと個性的なキャラクタ。近くにいればビクターと同様にウザいと感じるんだろうけど、憎めないヤツ。
ストーリの中心となるのはやはり、ビクターの葛藤。父親失踪の真相を知らされたり、インディアンであることにプライドを持っているのに差別されたり、うっとうしかった幼馴染のトーマスのありがたさに気づいたり、この旅の中でビクターは自分というものを見つめなおす。
ビクターの成長物語の裏で、テーマとなっているのはインディアンの現状。昔は狩りをして生活していた彼らも、侵略した白人たちが作り上げた社会の中では隔離され、“居住区”で政府からの補助金を受け取り生活している。特別貧しいわけでも、特別恵まれているわけでもなく、ただインディアンであることが彼らの生き方。仕事や稼ぎでしかアイデンティティを感じられないことほど悲しいことはないけれど、自由を奪って政府が飼育するような方法で守るインディアン文化というものにどれほどの価値があるのかは疑問(インディアンを批判するつもりは無い)。
若い2人の微妙な心の動き、そのきっかけになった出来事。本当によく練られた脚本に驚く。この映画は映像も魅力的。ほのぼのとした奇をてらわない映像なんだけど、その隅々まで監督の意識が行き届いているようで好感が持てる。
DVDの発売はなし。あるのはVHS(すごく高い)のみ。

スモーク・シグナルズ【字幕版】 [VHS]

スモーク・シグナルズ【字幕版】 [VHS]

サンダンス・NHK国際映像作家賞 official site
http://www.nhk.or.jp/sun_asia/sundance/j/1996_02.html