カナリア

wowowで『カナリア』を鑑賞。
光一は数年前に母親に連れられ妹とともにカルト教団ニルヴァーナに入信させられた。幼少期を教団施設内で過ごした光一は、母親とも会えず信者に囲まれ生活をしていた。しかし教団が起こした地下鉄テロ事件によって、ニルヴァーナは崩壊。光一と妹は関西の児童相談所に預けられることに。唯一の親族だった祖父は妹だけを引き取り帰っていった。指名手配中の母親も行方不明。1人になってしまった光一は児童相談所を脱走し、再び家族3人の生活を夢見て東京を目指す。途中、援助交際の相手に手錠をかけられた少女・由希を偶然にも助けそのまま旅を共にすることに。由希もまた大人から心に深い傷負わされた少女だった。
オウムによる地下鉄サリン事件をモチーフにした社会派ロードムービー。あの事件のことは、今を生きるほとんどの日本人にとって忘れられない出来事で、オウムという名前の響きからも不安な気持ちを掻き立てる。これを映画化(モチーフ)したいと考えるのは表現者としてある意味では当然で、しかし同時にとても難しいことでもある。その点でこの映画を作ったことを評価できる。
洗脳された人間がまた他の人間を洗脳するというカルト教団の中で、幼少期から青年期まで歪んだ価値観を叩き込まれた子供たちもまた被害者。光一(一般論でいう)悪の中で育ったイノセント。
光一と由希は祖母の家に行くまでに、レズビアンカップルや集団で生活する元信者たちに出会う。彼らは1度は家族を失い、そして新しい家族を作ろうとする存在。家族を無くした2人の12歳は彼らと触れ合うことで家族への希望を取り戻す。
コンセプトはよく練られているが、それだけの印象も。観客を引き込むような細部の描写が感じられなかったのと、全体にテンポの抑揚がない。
2人とも演技は上手。特に由希役の谷村美月は実力派。将来有望。
どうしてもがっかりしたシーンが2つ。1つは由希の友達がやってきて廃車の中で光一に話しかけるシーン。この友達の演技がひどい。セリフ自体も自然じゃないのでなおさら。もう1つはラスト。祖父の家に現れた光一を突然白髪にした意図がよく分からない。画としても美しくない。いきなり現れたときには光一は死んだのかと思った。そしてこの3人はどうなるのか。

カナリア [DVD]

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