オーデュボンの祈り

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

『オーデュボンの祈り』は読了。不思議な作品。伊坂幸太郎氏のデビュー作らしいが変わっている。普通のミステリーじゃない。解説でも述べられていたけど「シュール」というのが一番あってる。
正直イチオシ作品とまでは行かないけど、なかなか。内容は本の裏表紙によると「コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気づくと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り『未来が見える』カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか?」といった風。
ミステリーというだけでなくファンタジーにも近い。読み始めるとまるで不思議のアリスの世界にいるよう、そしてそこでいろんなキャラクターに出会う。しかし、この作品に出てくるキャラクターはみんななぞを持っていて、その一つ一つが解けていくのと同時にカカシの死のなぞも少しずつ解けていく。悪いやつを本当に悪く書いていて、その点では最近珍しい作品。最初あまりに突飛な世界観にスンナリとは行かなかったが、読んでいくうちにその不思議な出来事がリアリティを持ち出して全く不思議でないことのように感じ、その心境が主人公“伊藤”とシンクロする。こんなに不思議な島なのに、もし自分が同じ状況に陥ったら、自分もきっとこうなるんだろう。そう感じさせる。彼の他のも読んでみたくなった。
ただ、読者に対する説明が過剰なところがいくつかあって、この説明さえなければ読者が自分で勝ち得たカタルシスと感じられただろうと思う。言葉の端々から得た情報を以前の文章(記憶)と比較して得られるカタルシスをその作品の深さと捉えるのではないだろうか。僕の読み方が未熟なだけかもしれないが。それと、悪者。彼の容赦なさが自分の中では違和感を覚えるほどの絶対的な悪で、個人的には好きなキャラだ(あくまで小説内のキャラとして)。しかし、最後の迎え方があっけなくって物足りなかった。それと、“この島に足りないもの”のオチが???。これも物足りない。
振り返ってみればおとぎ噺を読んでいたのかも。そう感じさせる作品。決して悪い作品ではないです。次の作品を読んでから、作者が自分にあっているかを判断したい。その前にもう一回読みます。では。